【わかりやすく看護師が語る】エビデンスとはなにか【統計学と医療】

テレビやネット、ツイッタ-などで「エビデンス」という言葉を聞くことが多くなりました。この記事は看護師であり、大学院生の私がエビデンスについて解説するものになっています。

加えて、この記事を見ている方は「結局どの情報が正しいかわからなくなってしまった」「その情報の論理がおかしいと思うけど、どこがおかしいのかは指摘できない」

といった、「科学的根拠」に関連した悩みも抱えていると思います。

最初にはっきり断っておきます。

多くの人が「エビデンス」「科学的根拠」「因果関係」といった医療用語を正しく理解しておらず、その自覚がないまま使っています。

公衆衛生を専門としていない看護師の私からみても「科学的根拠がないのに根拠があるように書いている記事」や「科学的根拠があるのに内容に論じている投稿」がたくさんあります。

この記事ではこれはエビデンスに基づいていないな、と感じるヒントを提供します。

この記事はあくまでデータや統計学を論じており、特定の情報を否定する目的はありません。

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エビデンスとは何か

最初に結論を書きます。あくまで私の考えだということに注意してください。

  • エビデンスがある
    =第3者に監査を受けている論文で、効果が確かめられている治療法
  • エビデンスが高い
    =その治療法のエビデンスが積み上がった結果、治療ガイドラインに載っている

ということです。

だいぶ私の主観が入っていますが、医療職者が「エビデンス」という言葉を使ったときはだいたいこんなことを念頭に使っています。

科学的に検証されていて、きちんとした論文として世の中に出されている情報=エビデンスがある


ということになります。

エビデンスがある情報を見てみよう

エビデンスがある情報ってこんな感じです、っていうのを体感してほしいのでガチのエビデンス出します。難しいことは説明しないので、日本大腸研究会のガイドラインを参考にしてみましょう。

出典:http://www.jsccr.jp/guideline/2019/cq.html#cq4

このページを上から見てみると、「エビデンスレベルA」とか「エビデンスレベルC」とか出てきます。

ひとつの治療法に関していくもの論文を吟味して、その治療法の根拠のレベルをA~Dまでで判定して明記しています。

このガイドラインは大腸がんの治療について書いてあるものですが、

このガイドラインのエビデンスをつくるのに、

3295もの文献を参照し、吟味して作成しています。

このように、

エビデンスという言葉を医療者が使うときはこのくらいガチの用語なんです

逆に、エビデンスがない情報とはなにか?

それでは逆を考えてみましょう。

エビデンスにならない、エビデンスがない情報には特徴があります。ポイントを説明します。

1、試験管で起こることや実験室の中のデータはエビデンスにならない
2、エビデンスがある情報は因果関係を正しく論じている
3、エビデンスがある情報は適切なランダム化試験を根拠としている
4、個人の効果はエビデンスにならない

エビデンスがあるっぽい情報を吟味するヒント

4つのポイントを順番に解説していきます。

試験管や実験室の中のデータはエビデンスにならない

他の言葉を使って噛み砕くなら、

試験管や実験室で得られた効果は人の体でも起こるとは直接結びつけることはできない

ということです。

具体例をだしてみましょう。

ヒアルロン酸は保水性が高く、人間の身体の中に多く分泌する物質です。これは実験室で確かめることができます。

しかし、このデータのみを根拠として「健康のためにヒアルロン酸を塗ろう」というのは無理があります。なぜなら、

  • 「ヒアルロン酸が肌から吸収されるか」は実験室のデータからはわからない
  • 「ヒアルロン酸が吸収されるとしたら、吸収されたあとも保水性が高いという性質を保っているか」はわからない

といった理由が考えられるからです。

エビデンスがない情報には、実験室の議論をそのまま人体に適応しているパターンがあるということなのです。

エビデンスがある情報は因果関係を正しく論じている

因果関係については他の記事にて解説しているので、この記事を見てください。

因果関係を論じることについて世界一わかりやすく書いたつもりです。

ここではこの記事に書いていないことを中心に述べます。

先に結論を書きます。

因果関係とは「2つの事柄が原因と結果の関係になっていること」であり、「原因と結果の方向が決まっている」こと

です。

これを医学研究に関して論じるためには、

  • 統計学のお話(ベイズ統計学とか事後確率とかその辺り)がわかっているか?
  • 証明したい論理を患者さん対象の研究に持っていくだけの基礎研究の蓄積があるか?
  • 証明したい論理を証明できたとして、臨床で有用なものか?という吟味
  • 研究の設計、研究規模等を吟味して実現できるか?
  • 研究設計はほんとに大丈夫か?(←ここでミスったらマジで終了)
  • 研究のデータ取りのすべてが完了して、それで因果関係がでるか?
  • 論文の中で無理な解釈や甘いデータ分析はないか?

ここら辺りを全部クリアしていることが最低条件です。

逆を言うと、

「この情報は因果関係を正しく論じた情報ソースを使っている」と判断するためには、上で述べたことがクリアできているか自分で吟味できる必要があります。

これについて、かつわかりやすく説明しようとしましたが

挫折しました。

雰囲気だけ味わってください。

エビデンスがある情報は適切なランダム化試験を根拠としている

上で述べた因果関係を正しく把握するためにはランダム化試験という手法の研究が必要です。(ランダム化比較試験、RCTとも言われますが、同じ手法です。)

具体的なやり方は以下の記事で説明していますが、今回はこの記事に書いていないことを説明します。

実は、ランダム化試験は「適切に」行われないとエビデンスにならないのです。

ランダム化試験は患者さんを2つのグループに分けてそれぞれ違う治療を試すという方法なのですが、

よくある適切でないパターンは、

  • 参加人数が少ない
  • 2つのグループの間で、年齢や男女比などがバラバラになっている
  • 比較するポイントに欠陥がある(例えば、肺炎の治療の話なのに酸素の指標が入っていないなど)

などなど、たくさんあります。

このようにランダム化試験で確かめられているからといって、即座にエビデンスになるとはならないのです。その研究方法が妥当なのか、信頼性は高いのか吟味する必要があるのです。

ちなみに、

ランダム化試験が適切かどうか判定するためには、統計的な専門知識だけでなく臨床的な知識も必要です。(既存の治療と比べる必要があるため)

ということは、まともにこれらを判断、吟味できるのは

  • 統計学・医療統計学の知識がある(疫学研究の経験があれば◎)
  • 医療に関する論文を読むトレーニングを行っている(英語論文300本くらい?)
  • 医療に関する十分な知識がある(医師国家試験合格レベルは欲しい)
  • 治療が行われる臨床現場を知っている(どの状況にどの治療を使うか判断した経験がある)
  • 論文で出てくる新しい情報はどのような既存の情報や論文に基づいているのか吟味できる
  • (できれば)同じ分野の論文を読み漁っている

こんな人です、、、、、、

つまり、新しい医療や治療の情報を正しく吟味できるのは専門医くらいです。

素人が手を出したら大やけどします。

実際、SNSをみると間違った情報を専門医が訂正する状況ってよく見ますよね、、、

個人の効果はエビデンスにならない

これはどういうことかというと、

自分の経験を根拠に集団に同じことをするという論理は間違っている

ということです。伝わりますか?

例えば、

  • この病気にはこの薬Aだ!と自分の経験を元に治療する医師
  • お茶Aを飲んだら病気が治ったと言う友人

こういう人を信じますか?という話です。

エビデンスについての注意点

ここまできて気づいた人も多いと思います。

医学の素人さんや統計学の素人さんがエビデンスを見つけ出し、活用することはとても難しいというか無理

もしかしたら私達は医師やテレビ、公で真実と言われている情報を信じるしかないのかもしれません。

それがいやなら、公的な教育機関で勉強しなくてはいけないかもしれません。

(自力でやると挫折します。ためしに統計学の議論をしているホームページや医学論文を見てみてください。なにも頭に入ってこないと思います。)

ですが、

  • この情報って本当に正しいのだろうか?
  • この情報のソースはなんだろうか?
  • このソースはどのように吟味されているのだろう?
  • 日本○○学会などの医師の公的な学会はどのように言っているのだろう?

と自分なりに考えたことは必ず自分の力になります。たとえ情報を疑って、いろいろ考えた結果自分の始めの考えが否定される結果になったとしても、自分の頭で考えたことは自分の糧になります。

その自分の糧になる一つのきっかけになればいいな、とこの記事を書きました。なにかひとつでも伝われば幸いです。

エビデンスや統計学について初心者が学ぶには、「統計学が最強の学問である」という本がおすすめです。レビュー記事はこちら

エビデンスを判断する必殺技

一個だけ、十分なエビデンスかどうか判断する必殺技を書いておきます。

厚生労働省などの国の公的な機関に提示されている情報は正しいと思ってOK、なぜなら国の機関が書くということは、エビデンスが積み上がっている。つまり、覆すのが逆に困難な情報ということ

まあ、こんな感じです。

関連記事

情報を吟味する糧となる?かもしれない記事を貼っておきます。

定量的か定性的か→記事を書いたらリンク貼ります。

参考文献

この記事はこのページに着想を得て執筆しました。

1、『皆「科学的根拠」を勘違いしている』朝日新聞デジタル、論座RONZA

皆「科学的根拠」を勘違いしている - 浜谷陸太|論座 - 朝日新聞社の言論サイト
 新型コロナ感染症(COVID-19)流行で明らかになった一つのことは、多くの人(有識者と呼ばれる人を含む)が「科学的根拠(エビデンス)」を正しく理解していないことであった。公衆衛生学、とくに疫学を

2、日本疫学会 因果関係

因果関係 | 疫学用語の基礎知識

この記事の内容は以上です。

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