
統計学を学んでいる人は「統計学が最強の学問である」という本を1度は勧められたことがあると思います。
私も過去に勧められ、学部生だったときに買いました。
この記事ではこの本の中で、医学に関わる学生が読んでおくべき内容をまとめて紹介しています。
本を読みながらその部分は繰り返して読めるように付箋を貼っておくことをおすすめします。
※この本の全体のレビュー記事はこちらです。
「統計学が最強の学問である」の医療に関わるページ
この本ではグラフの読み方、医療統計、経済と統計、心理学と統計など様々な例を挙げてわかりやすく説明しています。医療に関わるのは次の3つにまとめることができます。
1、統計の基礎と医療の関係について述べた文章
2、「根拠に基づいた医療」に関する文章
3、研究の実施について述べた文章
この順番に沿って、自分の学んだことを織り交ぜながら、まとめていきます。
それぞれの項目には該当ページを明記してますので、活用してください。
統計の基礎と医療の関係について述べた文章

p8 統計学は最善最速の答えを出す p208-209 医学研究は「妥当な判断」を導く
筆者はこの2箇所はほぼ同じことを書いています。
統計学を使うことで、疾患を減らすために必要なことが明確になったということです。
これは統計学の手法の中で、「原因と結果を明確に出す」手法が発達したことで可能になりました。
「がんを減らしたければとりあえず喫煙率を下げろ。以上!」(中略)といった疫学研究のシンプルな答えが侃々諤々の議論をすっ飛ばしたことで、医学研究と健康政策の方針は代わり、50年前よりも我々の寿命はずいぶんと伸びた。
西内啓著 統計学が最強の学問である p15
具体的な手法は、ランダム化比較試験といいます。(後ほどまた出てきます。)
p92 因果関係の向き
本の内容をかいつまむと、「原因と結果の向きを検討するには、慎重に統計を適応しなくてはならない」ということが書いてあります。
これについては過去記事を書いていますので、こちらをご参照ください。
p266 事後確率について
例を出します。
- 薬Aを使ったあとに病気が治った。このとき、薬Aの効果なのか、そうでないか判断せよ。
- 疾患Bの検査をしたところ陽性だった。病気に罹っていないのに、間違った結果が出た確率はどれくらいか、述べよ。
これらを考える数学上の概念を事後確率と言います。
本の中ではp266に頻度論と比較して書かれています。これは統計を悪用したでっち上げと大きく関係する部分でもあるので、数学を用いて説明がほしいところです。このブログでも詳しく別記事を書こうと思います。
ここに記事を貼る。
「根拠に基づいた医療」に関する文章

p16 「エビデンス」が医療を変えた
今では、根拠に基づく医療(evidence-based medicine)が当たり前になっています。
しかし、昔はそうではありませんでした。
「人間の身体には不確実性が多く、データを取って分析すると、生理学的な理屈のうえでは正しいはずの治療法が効果を示さないケースや、経験と権威にあふれる大御所の医師たちがこれまで続けていた治療法がじつはまったくの誤りだった、という事例が少しずつ明らかになってくる。」
西内啓 統計学が最強の学問である p16
実際に誤りと分かった治療法については別記事を書いています。
p58 グラフから統計への進化について
p58には「ふーん」としか言えないグラフというタイトルが付いていますが、どういうことでしょうか。例を挙げてみましょう。例えばこのようなグラフを見たときになにがわかるでしょうか。

このグラフから、治療薬Aを使おうと思いますか?
- サンプル数はいくつなのでしょうか?まさか10人じゃないよね?
- これらの治療薬でどんな結果が得られたのでしょうか?(1週間で退院?、痛みがなくなった?)
- どの年代の方に使った結果なのでしょうか?
- 治療薬Aを使った方は「持病が多かった」などの偏りはなかったのでしょうか?
- これはどこの地域や国のデータなのでしょうか?
なにもわかりませんね。このようにこのグラフはなにも参考にならないのです。
それでは「参考になるデータ」とは何なのでしょうか。それは
- なんの要因があれば治療成績は上がるのでしょうか?
- そのような治療は実現可能なのでしょうか?
- そのような治療の成績は治療の不利益を上回るものなのでしょうか?
こういったことを答えてくれるデータです。これらを検討しないとなににもならないのです。
研究の実施について述べた文章
p55 サンプルサイズは必要かつ最小のものを p128 研究倫理
この2つは内容がかぶるので一緒にまとめていきます。
どちらも研究によって被験者に有害なことがもたらされてはならないことが述べられています。
ここから個人の感想ですが、とくに臨床では、
治験というものは薬や治療の効果を判定する研究ですが、「患者さんの命も預かりながら行っている」ということは絶対に忘れてはいけません。(特に、抗がん剤の治験とか)
自分が患者さんだとして、

「協力していただいた治験は、サンプル不足により結果がよくわかりませんでした。」と言われたらブチギレますよね?

といっても、サンプルを増やしすぎると患者さんの不利益も増えるので協力者さんはできるだけ少なくしたいのも事実なのです。
サンプル数には比較的簡単な算出方法もありますが、数学を使うので、別記事をいずれ書きたいと思います。
p100 ランダム比較化試験
ランダム化比較試験は研究対象者の質を均一にするので、
- どの年代の方に使った結果なのでしょうか?
- 治療薬Aを使った方は「持病が多かった」などの偏りはなかったのでしょうか?
というツッコミを回避することができます。(これさっき出てきましたね)
これについては別記事を書いていますので、記事を貼っておきます。
参考ページ:日本理学療法学会連合(新しいタブで開きます)
p138 ケースコントロール研究
書籍の中では、1950年頃おこなわれたイギリスの肺がんと喫煙の関連性を調べた研究が例に挙げられています。

病気になった人とならなかった人を比較し、統計的手法を用いることにより、タバコのせいで肺がんになるのかならないのかを明らかにしています。
この手法の大きな利点は、希少な病気の研究に適していることです。
いずれ記事は書きたいと思っています。
しかし、ランダム化比較試験で回避できた
- どの年代の方に使った結果なのでしょうか?
- 片方には「持病が多かった」などの偏りはなかったのでしょうか?
といったツッコミは回避できません。
参考PDFファイル:日本医療薬学会資料
https://www.rad-ar.or.jp/pharmacoepidemiology/seminar/pdf/2014_case-control_FIX.pdf
p281 エビデンスになりうる研究
書籍には、「系統的レビュー」と「メタアナリシス」が最高のエビデンスになると書いてあります。
この2つの研究手法は、「同じ疾患に対する複数の質の高い研究を統合し、分析しなおす研究」です。
(区別して使うこともありますが、そこは触れないでおきます。説明がめんどくさい。)
実は、さっきまで出てきたランダム化比較試験も万能ではないため、検討が必要です。その検討をしたものが「系統的レビュー」と「メタアナリシス」です。
ここまで研究して、正しさが証明できれば立派なエビデンスになります。
関連する記事を置いておきます。エビデンスってなんなのかを解説しています。
結局、「統計学が最強の学問である」はおすすめなのか?
これらを踏まえると、めちゃくちゃ勧められます。自分が統計学をやっていて大事だと思うポイントをほぼすべて抑えています。
この記事の内容は以上です。
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