※2020年8月20日現在の情報になります
統計学を勉強していて、「なんでこんな難しいことをやんなきゃないいだ!!!」とか、「難しい、もう無理」と思っている方も多いと思います。

看護専攻の大学院でもみんなで、悩みながら授業の課題をやっていた思い出があります。しかし、統計学をやっておかないと読めない論文が出てきます。
この記事では私の経験を踏まえながら、なぜ医療に統計学が必要かを述べていきます。
結論
結論を先に書きます。医療に統計が必要な理由は次の3つです。
- 全員に確実に効く治療は無いから
- 治療の効果とリスクを天秤にかけなければならないから
- 正しいと思われていたものが覆されることがあるから
全員に確実に効く治療はないから

1つ目の理由から解説します。胃がんを例に挙げてみましょう。
主な治療は例えば以下のようなものが挙げられます。
・内視鏡による切除
・胃の2/3を切除する
・胃をすべて切除する
・がんの切除は全くせず、食物が通る道を確保する
・手術に化学療法を組み合わせる
・化学療法のみで治療する
これはがんの大きさや患者さんの年齢、もともとの身体機能を考慮して決められます。
詳しくは最下部の参考サイト1,2を御覧ください。
ここで問題となるのは今目の前にいる患者さんにどの治療が最善なのか考えることです。
考える材料として”このケースでは胃をどの程度切除するのが良いのか”、”このケースではそもそも手術しないほうが良いのではないか”という研究疑問のもと多くの臨床研究が行われてきました。
こうして統計学を使った研究によって、大量の治療の示唆が得られてきました。
このように考えると医療に統計学が必須なのはいうまでもありません。
(統計学がどのように威力を発揮するのかについては別記事にて解説しようと思います)
治療の効果とリスクを天秤にかけなければならないから

先ほどと同じように胃がんを例にして考えましょう。
次のような患者さんに対して皆さんはどのように考えるでしょうか。
「再発のリスクが少しでもあるならば胃をすべて取ってください。」
この患者さんの気持ちはもっともだと思います。誰だってがんの再発は怖いですからね。
それでは胃をすべて取ることによってどんな弊害があるか考えてみましょう。
胃は次のような機能を持っています
主な胃の機能
・食べ物のかたまりを小さくする
・タンパク質を消化する
・食べ物を溜めておく
・鉄分の吸収を促進する
など
もし胃をすべてとってしまえばこれらの機能はその人から永久に失われます。
そこまでして胃を取るべきなのでしょうか。
これが治療の効果とリスクを天秤にかけるということです。
このような疑問に対して統計学は「現時点での最善」を導いてくれます。
これを文章化したものが治療のガイドラインになります。
①とほぼかぶっていますが、これが医療に統計学が必要な理由のひとつになります。
正しいと思われていたものが覆されることがあるから

2つ例を挙げていこうと思います。
1つ目は私が大学の学部生時代に生理学を教えてくれた循環器内科の医師(教授)から聞いた話です。(出典は見つけられなかったので話半分で聞いてください。)
「β遮断薬は私達が研修医だった頃は心臓に病気がある患者さんには禁忌だった。だけれども今は心不全の第一選択になる場合がある。」
慢性心不全はいわば”頑張りすぎている心臓”の状態になっています。そこでβ遮断薬を使うことによって心臓の働きを休め、長く動き続ける力を助けることができます。(参考サイト3より)
講義でその先生は、
「私が若い頃は心不全の患者さんに心筋を休める薬を使うなんてとんでもないことだと言われていたんだけど、実は心筋を休めたほうが患者さんが長生きすることがわかって常識が覆った。」
とおっしゃっていました。
2つ目の例は1991年に行われたCAST試験と呼ばれているものです。
これは心筋梗塞の既往がある患者さんに対してある抗不整脈薬の効果を調べた研究になります。
心筋梗塞の既往がある患者さんを2群に分けて
・片方にはプラセボ(薬にも毒にもならない偽薬、研究には必須のものです。)
・もう片方の群には抗不整脈薬
を飲んでもらってその後の経過を追跡調査しました。
すると、抗不整脈薬を服用した患者さんの方が不整脈を原因とした死亡数が増加し、試験は中止となりました。
ここから心筋にダメージがある場合はある種の抗不整脈薬は推奨されないという結論が導かれました。
このように理論を統計学によって証明していくことが大事
ということがわかりますね。(ソース:参考サイト4)
統計学の基礎から勉強したい方へ
統計学や統計リテラシーについて学ぶと良いと思います。「統計学が最強の学問である」という本は、数式をできるだけ使わずに説明しているので、めちゃくちゃおすすめです。
レビュー記事を置いておきます。
まとめ
いかがだったでしょうか。最後に今回の結論を再掲しておきます。
1.全員に確実に効く治療は無いから
2.治療の効果とリスクを天秤にかけなければならないから
3.正しいと思われていたものが覆されることがあるから
参考資料
統計学がいかに有用か、なぜ使えるのかを解説してくれる本はこちら
私も読みましたが、おすすめです。
統計学でおすすめの他の読み物はこちら
参考サイト
すべてのリンクは新たなタブで開きます。
1、国立がん研究センターの解説ページ
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/treatment.html
2、一般の方向けの胃がん治療のガイドラインPDF(2004年版、最新版はまだ出ておりません。)http://www.jgca.jp/pdf/GL2IPPAN.pdf
3、京都大学医学部附属病院循環器内科HP
http://kyoto-u-cardio.jp/shinryo/chiryo/00607/0060703/
4、公益財団法人 日本心臓財団HP
https://www.jhf.or.jp/pro/hint/c3/hint015.html
記事の内容は以上です。
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